「初めまして、ラグドラグ。私がエルニオの融合獣、ツァリーナよ」 広場の中心の花時計のそばで三体の融合獣は対面した。 「わたしはジュビルムでーす。羅夢ちゃんと融合しまーす」 ジュビルムは二本の長い耳を左右に動かしながら、自己紹介する。 「俺はラグドラグ。今はジュナと融合している。よく見るとジュビルムは平温族樹属性か? 俺ァ融合獣を見たり聞いたりしただけで、種族と属性がわかるんでね」 「ジュビルムって樹なの? 羅夢ちゃん」 ジュナは羅夢に訊ねる。 「はい。樹の融合獣は植物の遺伝子も使ってますから……」 そういえば、とジュナは思った。自分の住んでいる街や他の街で見かけた融合獣の中には、花や葉をつけた融合獣もいたのを。あれが樹属性だとは知らなかったのだ。 「あ、そうだ。エルニオさんて、いつからツァリーナと一緒にいるようになったのですか?」 羅夢はベンチに座っているエルニオに訊ねた。まだ訊いてなかったのだ。 「わたしも、訊いていない」 ジュナもそう言い、エルニオは二人を見て渋い顔をして語り始める。 「僕とツァリーナが出会ったのは四年前のことだ――」 エルニオはエリヌセウス国籍のノルマロイドであるが、生まれはエルネシア地方ではなく、エルネシアの西に接するレジスターランド地方のマルザーヌという町で生まれ育った。マル ザーヌはレジスターランドの北西の小さな町である。 エルニオの家は金貸しで母親は彼が六歳の時に病死し、五歳上の姉と金融業者の父親との三人家族だった。姉は優しい人だったが、父親は悪名高い金貸しで借金を返せない人には死んでまで金を払ってもらうという脅しで借金返済を要求していた。エルニオと姉は毎日のようにペコペコしている貸し主と父親のあくどさを見ていた。しかも父親は最初の金額より借金を追加させ、その利益を自分の懐に入れてがっぽり稼いでいたというのだ。エルニオと姉は学校に行けて食うには困らなかったが、学校のみんなからいじめられていたという。 ツァリーナと出会った時は、年明けの二週間後ぐらいでこの日は雪の日だった。この年の年明けはすぐに雪が降り、三日おきに起こっていた。九歳のエルニオはこの日、お使いに行っていた。フードつきの薄茶色のダッフルコートをはおり、手にはゼヴェータ素材の手袋をはめ、チョコレートブラウンのブーツを履いてという重装備で、買い物品入りの紙袋を二つ持って家に帰るところだった。 マルザーヌは長屋の町で、白い三階建ての建物が塀のように並び、上空から見ると迷路のようになっている。道路は白い長屋に対して赤茶色の石畳。道には黒い鉄製の外灯がぽつりぽつりと立っている。 エルニオは白い息を吐きながら、紙袋を抱えて歩いていた。道行く人はあまりいず、長屋の窓から明るい光がこぼれていた。その時、後ろからドサッという音がして振り向いてみると、いつの間にか一羽の緑鳥が倒れ込んでいたのだ。それがツァリーナだった。 ツァリーナは各地を転々としているうちにこのマルザーヌに迷い込んで寒さに耐えきれず力尽きてしまったという。エルニオはツァリーナをコートの中に入れて温め、急いで家に帰っていった。「813」と書かれた札がかかっているドアがエルニオの家だった。エルニオは中に入って、ツァリーナを暖房のきいた部屋の中に置いてあげた。すぐさまツァリーナは回復し、起き上った時に彼女の喉に仄青い石がついていることに気づいた。 「ありがとう、坊や」 鳥が突然口を聞いたのには驚いたが、その鳥は稀有な生命体、『融合獣』だったということを知った。エルニオは融合獣のことは文献やネットで知っていた。すぐさま二人は仲良くなった。 「エルニオ、帰っているの?」 台所で晩御飯の下ごしらえをしていた姉、ネリスが居間にやって来た。ネリスはエルニオと同じプラチナブロンドの長い髪とエメラルドの瞳を持っており、「町一番の美人」と呼ばれていた。そしてツァリーナを見て驚いた。 「エルニオ! この鳥は融合獣じゃない! どうしてここに!?」 「お姉ちゃん、このツァリーナは……」 姉に事情を話したエルニオは姉から融合獣は闇市場で高く取引されることを聞かされた。 「以前に父さんが言っていたわ。『融合獣はいい価格になる』って……」 「どうしよう……」 ツァリーナも戸惑いを隠せなかった。そこで姉弟は父親に内緒でツァリーナを隠して世話をすることにした。この時父親は客人のところへ借金の返済を要求しに行っていたのでいなかった。 ツァリーナは一緒に暮らしていた適応者を三回も亡くしており、その後はさまよい続けていたという。姉弟はツァリーナにご飯をやる時、父親に気づかれないようにしていた。 だが三週間後、姉弟がごそごそしているのを父親に気づかれてしまい、父親はエルニオの部屋にいるツァリーナを見つけてしまったのである。ツァリーナを見た父親は毛並みの良さや契合石を見て、いい代物だと思った。 「そいつをよこせ!」 「嫌だ! 売らないよ!」 エルニオはツァリーナを庇い、ネリスは父親を止めたが突き飛ばされてしまい、父親は嫌がるエルニオからツァリーナを奪った。ツァリーナも暴れ羽ばたく。 「ほう! こいつぁ高値になるぞ。このセレスタイトのような契合石なら七〇ヴィーザぐらい……」 エルニオの父親は体が大きく腕っぷしも強く恰幅が良く、ブロンドの髪と口ひげからは熊(べマーグ)を思わせる風貌であった。 「やめてよ! ツァリーナを返して!」 エルニオが泣きながら訴えるのも訊かず、父親はツァリーナを連れて鳥かごに入れた。明後日には闇市場に売り飛ばそうと。しかも鳥かごのカギは父親が持っているため出せなかった。 しかし……。 翌日、父親は取り立てに家を出て、姉弟はツァリーナの悲しむ姿を見るしかなかった。ところが、その日の夕方に隣人のおばさんが蒼い顔して姉弟に言った。 「あんた達のお父さん……ジンツァーさんが亡くなったよ!」 それを聞いてネリスとエルニオは驚いた。話によると父親は借金の取り立てに行ったところ、相手が「約束と違う」と言ってもみ合いになり、相手のアパートの外階段から落ちて打ちどころが悪く死んでしまったということだった。 父親が死んだ時、複雑だった。父親はあくどい金貸しで周囲の者だけでなく、エルニオも姉も嫌っていたが、父親が亡くなるとそれなりに悲しかった。幸いツァリーナは売られることなく助かり、エルニオと姉はエルネシア地方に住む母方の祖母に引き取られて今に至るのだった。 「う……」 エルニオの話を聞いて、ジュナと羅夢の心はあまりいいものではなかった。幼い頃に母親が病死し、父親があくどい金貸しということで皆から蔑まれて、その父親が死んだ時も複雑な心境だったという生い立ちを知って、同情の気持ちしかなかった。 「そんなに暗い顔するなよな。これはもうとっくに終わってるんだから」 エルニオがため息をし肩をすくみながら二人に言う。 「それにおばあちゃんは僕と姉さんを快く引き取ってくれたし、姉さんも大学に行けて、僕も新しい友達が出来て……。でも、融合適応者はいなかったけど」 「エルニオさん、ツァリーナと融合したのはいつから?」 羅夢が訊ねてきたので、エルニオは答える。 「二年くらい前かな。ツァリーナが自分が人手に渡らず悪用されないようにと融合をもとめたんだ。僕がなるか姉さんがなるか迷ったけれど、結局僕が……」 「なったのよね。わたしもパパが亡くなってママと二人暮らしだったけれど、ラグドラグが来てから家が明るくなったし」 脇にいたラグドラグがジュナに言う。 「ジュナ、俺腹減ったよ」 ツァリーナやジュビルムも言う。 「あたしもー」 「ご飯食べたいですぅ」 エルニオが後ろの花時計を見てみると、時刻は正午十五分前を指している。 「そんじゃ行こうか。今日は平和祭休暇で店も混むだろうし」 三人と三体は大通りのレストランに入店した。 レストランは一階と二階が店舗になっており、一階ずつ厨房が備えられていた。もう十数人のお客さんが来ている。一行は一階の厨房が見える六人席に座った。ジュナたちは黒い木の椅子に座り、融合獣たちは同じ黒い木の壁椅子に座る。料理人たちは白いコック服と黒いズボン、ウェイターやウェイトレスは黒いエプロンだけ共通で、あとは各々の服である。 「いらっしゃいませ、ご注文はよろしいでしょうか?」 ウェイトレスの女の人が注文に来る。ジュナはメヒーブの香草ソテーサラダ付き、ラグドラグは赤鱈(ルエデ・ラウテ)のフリット、エルニオは赤(ルエデ)マチェロン(筒状麺)のグレーティニ(グラタン)、ツァリーナは南海老(ソート・スロンピー)のレイジュッタ(リゾット)、羅夢はこってりした食べ物が苦手で卵と鶏(キキリキ)のサラダと緑米(ヴェルナ・リッケ)を頼み、ジュビルムは茸サラダとジャネポポトージオを頼んだ。ジュビルムもこってりしたものが苦手らしい。料理が運ばれてくると、みんな食べ始めた。頼んだ食べ物を見てみると、人間も融合獣も それぞれの好きなものかどんなのかがわかる。ラグドラグは魚が好きで、ツァリーナは粒状や液状のものを好み、ジュビルムは野菜や果実を好むのである。それは基となった動物の性質でもあるかららしい。 「羅夢ちゃんはそれだけで大丈夫?」 ジュナはサラダと米飯しか頼まなかった羅夢に訊ねた。 「わたしはちょっとこういったものは食べ物が苦手で、まだ慣れないんです。和仁族は醤油や味噌や香辛料や酢を使った料理を口にすることが多いので。同じ肉や魚でも煮物や蒸し物や直火焼きなら。穀物と野菜、あと甘いものは北方食(ブレザしょく)でも南方食(ソルしょく)でも熱帯食(バルカしょく)でも無特徴食(ノルマしょく)でも平気だけれど」 「長い間、暁次に住んでいて急に環境や文化が変わったから、染みつくまでに時間がかかるってことか」 エルニオが円筒コップの水を飲みながら解釈する。 一行がのんびり食事をしていると、街の非常サイレンが鳴りだした。 「なっ、何だぁ!?」 ラグドラグが驚いて叫んだ。 「い、一体なんですかぁ〜」 ジュビルムが頭を押さえて震える。 「融合暴徒(フューザー・リオター)が来たぞーっ!!」 外からこう聞こえたので、窓を覗いてみると街の人々が逃げ惑っていた。しかも逃げ惑っているのは融合獣と一緒にいる人たちだ。これは一体……。 「坊やたち融合適応者だろう? 出ない方がいいよ」 コックコートを着た食事屋の店主が言った。 「彼らは融合獣を狙うフューザーリオターだ。君たちも融合適応者ならわかるだろう? 融合獣は闇市で高く売れることを――」 捕まってしまったら融合獣を奪われることだった。融合暴徒(フューザー・リオター)というのは名前の通り融合獣と共に犯罪を起こす者のことで、他者の融合獣を捕まえて裏の世界で売買しているのだ。 すると警察車が何台か来て、プロテクタースーツを着た警官がレーザーライフルを持って、ぞろぞろとフューザーリオターを囲った。 「君たちは完全に包囲された。大人しく自首したまえ。そして君たちの融合獣も渡してもらう」 特攻隊の隊長が二人と二体に言う。一人は彫りの深い顔をした黒髪銅眼色黒の大男、もう一人は細身で細長顔に金褐色の長髪黒眼に色白の男。二人は体格や髪色こそはうが、冷たい目にアーミーファッションの服装をしていた。大柄の男はモスグリーンのアーミーシャツジャケットと黒いタンクトップと緑の迷彩柄ズボン、細身の男は灰色のバトルジャケットに黒いベストと灰色の迷彩パンツの服装である。そして二匹の融合獣。 一体は犀(リナス)のように鼻の上に大小の二本の角を持った四足の融合獣だが、体の色はガンメタルで大きさは普通の犀(リナス)よりも小さく十八ジルクの大きさで額に濃い黄色――ローアンバーの石がついている。もう一体は半ゼタン程の大きさもある蝸牛(デンマイリ)のような融合獣で、軟体部分は薄い青紫、円状の殻部分はヒヤシンスブルーで渦の中心にビリジアン色の契合石がある。 「君たちはお尋ね者のフューザーリオター、ガムラン・ジーとマサロ・ゾン! その融合獣、ライザックとカタコッロ! 君たちを融合獣捕虐罪(ゆうごうじゅうほぎゃくざい)と融合獣(ゆうごうじゅう)売買の罪で逮捕する!」 体調が指をさしてガムランたちに言う。 「へっ! 逮捕が怖くて適応者がやってやれるか。ライザック、行くぞ!」 ガムランが言うと、見たまんま頑丈そうなライザックが近付いてくる。 「カタコッロ!」 マサロもカタコッロを呼びよせる。カタコッロは蝸牛(デンマイリ)よりも速い動きでマサロに近づいた。 「融合発動(フュージング)!!」 二人が叫ぶと、ライザックとカタコッロはそれぞれの適応者と融合した。ガンメタル色の激光と青紫色の爆風が二組を包み、爆風がやむと融合したガムランとマサロが出てきた。 ガムランはガンメタル色の犀(リナス)獣人のようになり、その姿は重騎士のようだった。マサロは頭部部分が殻になっており、二の腕や腿は軟体と同じ薄青紫、両腕、両脚、胴体部分が殻と同じ色の外装になっている。ガムランは額にローアンバーの契合石、マサロは背中の中心にビリジアンの契合石が光っている。 「ゆ……融合したぞー! 攻撃開始っ!!」 特攻隊が二人にレーザーライフルを向けて発射した。 ビュイン、ビュインとレーザー光線を発する音が街中に響いた。だが……。いつの間にか無法則な黒い金属性のバリケードが出現し、隊員の攻撃を防いでいた。中心にはしゃがんで地面に拳を立てているガムランがいた。 「残念だったな。さっきお前たちには気づかないように技を発動させておいたのさ」 ニィとガムランは余裕の笑みを見せる。 「次は俺だ」 マサロが右手をあげて雨水を掃除機のように掌に吸い込んだ。かと思うと、その右手を特攻隊に向けた。 「強酸雨、溶鉄降雨(ディソリュート・スコール)!!」 ザアアッとにわか雨が降り、特攻隊の銃やプロテクターをじゅわじゅわと溶かし、防護服も穴が空き、素肌に強酸雨がついた時、隊員の何人かが悲鳴をあげた。強酸雨のかかった肌がいくつものの水泡ができ赤くなっていた。特攻隊は一目散に逃げ出した。 「へへへ、強酸雨にかかっただけで逃げたぜ、ガムラン」 「そんじゃあ行くか。この街の融合獣を捕らえて……」 ガムランがそうしようとした時、ジュナたち三人がガムランとマサロの前に現れた。そしてその前にラグドラグたち三体がいる。 「ほう……。お前たち、自ら融合獣を俺たちに捧げに?」 マサロが言うと、エルニオが叫んだ。 「平和祭の日に、平和を乱すなんて許せないね。いくよ、ツァリーナ」 「ええ」 次に羅夢が言う。 「これ以上は好きにさせません。ジュビルム!」 「もちろんです!」 そしてジュナも。 「わたしたちも行くよ、ラグドラグ」 「おう!」 三組はフューザーリオターの好き放題を黙って見るわけにもいかず、立ちあがった。三人の融合適応者が叫ぶ。 「融合発動(フュージング)!!」 ジュナは白いオーラ、エルニオは緑のつむじ風、羅夢は薄桃の花吹雪に包まれ、各々の融合獣と融合した。白いオーラから融合したジュナ、翠風からはエルニオ、花吹雪からは融合した羅夢が姿を見せる。融合した羅夢は頭部の上半分が跳兎(ジャニーヘン)の頭部を被ったようになり、両腕両脚はベビーピンクの跳兎(ジャニーヘン)の手足、胴体部分も同じ色で、二の腕と両腿は白く、腰に長い尻尾、腹部に若葉色の契合石が輝く。 「ガムラン、あいつらの契合石を見てみろよ。珍しい色合いだぞ」 ライザックがごつい声でガムランに言う。 「ああ、明紫(めいし)にソーダブルー、若葉緑……。こいつらは高値で売れるぞ」 「どうする、ガムラン?」 マサロが訊ねる。 「そんなのは決まっている。力づくでな!!」 ガムランはドスンドスンと足を鳴らしながら突進してきた。 「そうは……いかない!」 エルニオとツァリーナが声をそろえ、大きく宙返りしながらガムランの突進攻撃を避け、ジュナ・羅夢もそれぞれ右と左に大きくジャンプして避ける。ガラナンは白い石のプランターに衝突し、プランターが粉々に砕けた。 (うそっ!!) ジュナと羅夢はライザックの破壊力を見て、たまげる。羅夢が驚いていると、後ろから気配を感じた。ビュッビュッと粘着液が飛んできた。羅夢は壁を蹴って、粘着弾を避ける。べチャッ、べチャッと薄い青紫の粘液が壁についた。まるで貼りつきの強い糊のようだ。粘着弾を撃ってきたのはマサロだった。頭部の噴出口から粘着弾を吐き出してくるのだ。 「や〜ん、気持ち悪い〜」 カラコッロと融合したマサロの攻撃を見て、羅夢は顔をしかめる。羅夢は道の上に着地したもの、マサロが次々に粘着弾を出してくるので、避けなければならなかった。羅夢はリズミカルに跳び避けるが、ここでポツリポツリと雨が降り出した。どしゃ降りではないものの、羅夢とマサロの機転が変わった。あまり動かなかったマサロが雨が降ったとたんに、動きが早くなったのだ。正しくは滑るように動いているのだ。氷上滑走の選手のようだ。そして滑走しながら粘着弾を発射し、壁と壁を反復跳びをしている羅夢に粘着弾の一つが当たった。 「きゃっ」 粘着弾が壁に貼りついて羅夢の動きを封じた。動きを封じられた羅夢を見て、カタコッロがだみ声でマサロに言う。 「動きを封じたぞ。今のうちに倒せ」 「ああ、そうだな。技言の方がいい」 マサロはニヤリと笑う。マサロがまた右掌で雨水を吸水して溜め指先を羅夢に向けた。指先から出た雨水が水の針に変化した。 「静雨針突(サイレントネス・ニードル)!!」 水の針が羅夢に向かってくる。それを見て、ガムランと戦っていたジュナが叫んだ。 「羅夢ちゃん!!」 その時、鉄堺が飛んできて、ジュナの胴体に命中した。 「ぐは……っ」 鉄堺の攻撃を受けたジュナは壁に大きく叩きつけられた。 「ジュナ!!」 空中にいたエルニオも飛んできた鉄堺を受けて舞い落ちた。 「もうおしまいか? ざまーねぇな」 ガムランが手をはたきながら言った。融合闘士(フューザーソルジャー)となったガムランの攻撃、鉄化豪投(アイゼンスルー)は石などの物質を堅鉄(けんてつ)に変え、その堅鉄(けんてつ)を拳で飛ばすという恐ろしい技だった。そして立とうとしているジュナの肩をつかみ、鉱石研磨用のナイフを出して、ジュナの胸についているラグドラグの契合石を剥がそうとした。 「やだ……っ」 ジュナがばたつくと、ガムランはニヤリと笑う。 「安心しな。嬢ちゃんは契合石を剥がされたって死んだりしねぇって」 (え!?) ガムランの台詞を聞いてジュナはわからなかったが、とにかく危ないことだと感じていた。 (契合石剥がされても、わたし(・・・)は死なない……って……!?) 恐怖のあまり眼を瞑った時、後ろの建物の屋根から声が聞こえてきた。 「ジュナ、よけてろ」 エルニオがそう言うと、交差した両手を伸ばして翠風の竜巻を生み出した。 「翠風の渦風(エアリアル・ツイスト)!!」 ビュオオオオオ、と風の渦がガムランの方へ向ってきて、ガムランを捕まえて上昇し、ガムランはぐるぐると風の中で回された。 「うおおおおっ」 ガムランは翠風の渦風(エアリアル・ツイスト)によって、街の向こうへ飛ばされてしまった。 「すごい……」 ジュナはエルニオとツァリーナの連携技言を見て、驚くばかりだった。 一方、羅夢はどうしたかというと、マサロの静雨針突(サイレントネス・ニードル)を受けそうになった時、素早く防御技を発していた。羅夢は近くの建物の壁に生えていた蔓植物を掴んで変化させ、大きくて太い鉄パイプのような蔓を伸ばしてきたのだ。 すると壁から蔓が出てきて羅夢の体を包み、それだけでなく蔓は羅夢の体についた粘着液を落としてくれたので、羅夢は抜け出すことができた。その後は道の上に着地し、滑走しながらマサロが粘着液攻撃を仕掛けてくる。しかし羅夢は防御の技言、数多蔓の壁(ヴァンティンス・ウォール)で攻撃を防いだ。 (樹属性であるジュビルムの防御を防いでしまう……って、ことはあの融合獣は水属性!!) 羅夢はカタコッロの属性を見極めると、攻撃技を発動させた。 羅夢が右手を上げ花弁を旋風のように集めているのを見て、カタコッロはマサロに指示した。 「おい、マサロ。防御しろ。やられるぞ」 「あ、ああ……。な、何ぃ!?」 その時、羅夢が両掌から数多の薄紅の花びらを出してきた。 「梅花爆弁(ブルーメン・ボンバティエ)!!」 花弁は大きく舞い散り、マサロや地面に当たると爆発した。 「ぐわあああっ」 羅夢とジュビルムの攻撃を受けて、マサロとカタコッロは分離して倒れた。そして羅夢とジュビルムも花吹雪に包まれたのち融合を解く。 「羅夢ちゃん、大丈夫だった!?」 ラグドラグと融合解除したジュナが駆けつけてきた。 「平気です。今日は運よく、相手がジュビルムに有利な属性でしたから」 羅夢は開花したような笑みをジュナに向ける。 その時、雨が止んで薄灰色の曇り空になった。その空の隙間から太陽の光が差し込んだ。 その後、警察が来てガムランとマサロ、融合獣ライザックとカタコッロは逮捕されて、護送車に乗せられた。ガムランとマサロは融合できないようにと両手両足に枷をされ、ライザックとカタコッロは契合石を黒くて細かい鎖を編んだような強耐(きょうたい)布(ふ)で隠された。 「君たち、どうもありがとう。融合暴徒の二人から平和祭の街を守ってくれて」 大柄で赤茶色の髪と口ひげをはやしたエルネシア地方警察の警部がジュナ一行に礼を言った。 「あの二人は融合獣を捕らえて闇市場に売って大儲けしていた連中でして、我々でも手を焼いていたのです。あの二人組は互いの短所を補って犯罪を犯していたのです」 警部の話を聞いていて、ジュナが訊ねた。 「そしたら融合獣の保護団体みたいなのに任せればいいじゃないですか。そういうのは……」 「ジュナ」 エルニオが肘でジュナを突っつく。 「そういうのは自然生物保護団体とは違って、作れないんだよ。なぜなら融合獣は不死の人工生物だから。保護協会を作らなくても、適応者さえいれば我が身を守れるんだから」 「……」 エルニオに言われて、ジュナは沈黙した。 (でもさっきガムランという人が言っていた「契合石を剥がしても適応者は死なない」ってのが引っ掛かるな) ジュナはその疑問がずっと頭から離れなかった。このことについてはその少し先の未来で解明されるのだが、この話はもう少し後で語られる。 そして三組は警察から謝礼として、感謝状とレジスターランド地方にある大型遊園地『レジスター・ビッグパーク』の三泊四日の無料招待券と園内ホテルの宿泊無料券をもらったのだ。 ジュナ・エルニオ・羅夢は平和祭休暇の残りをレジスター・ビッグパークで過ごすことになった。 |
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