嘘のように暑かった夏が終わって、緑の葉や草が赤や黄色に染まり、冷気が日増しに強くなるエリヌセウス皇国の秋――。 れき青や石畳で舗装された道、色とりどりの店や住宅などの建物、花壇には秋に相応しい赤や青や紫の花が植えられ、街路樹の木々も黄色く染まり、茶色い枯れ葉が地面に散らばり、人々は外套は流石にはおってはいないが暖かな長袖や長ズボン、女性はスカートにタイツやハイソックスを身につけ、空では浮遊車(カーガー)が走り、家よりも高い筒間列車(チューブライン)がチューブ型鉄道を走り、空はこの日は灰色の雲に覆われていた。 首都、エリヌセウスのあるエルネシア地方の小山とピーメン川の近い色とりどりの住宅街に一軒の白い家があった。茶色がかった芝生の庭、台形と四角を合わせたような家宅、台形の屋根が半分窓に待っている部屋では――。 「全然解読できな〜い」 この部屋の主、ジュナ=メイヨーは布張りの回転椅子に座りながら、コンピューターの電子網(サイバネット)サイトから印刷したアルイヴィーナの様々な国や人種の古代文字のプリントを宙に投げだして机の上につっぷした。プリントがひらひらと舞い、明るい灰茶のカーペットの床に散らばる。 「おい、ジュナ。ちゃんと片付けろ。お袋さんに怒られるぞ」 白い体に十ジルク(一メートル)そこそこの体ながらも、角と長尾と翼を持つ竜型融合獣ラグドラグがプリントを拾い集める。 「ん〜、そう言われてもねぇ……」 そう言ってジュナは顔をあげ、けだるそうな金の眼をラグドラグに向け、肩まであるストレートの明褐色の髪が乱れる。ジュナの部屋の机は白い天板に薄型のモニターコンピューターとキーボード、辞書や参考書が並べられ、丸筒のベビーブルーのペン立てにはカラーペンやシャープペンシル、ノック消しゴムやハサミが入っている。他にも学校の教科書やライトスタンド、その中心にピンクがかった白い石板があり、その石板には虫や鳥や人を思わせる記号が刻まれている。 時をさかのぼること三週間前――。ジュナの亡き父の周忌にアクサレス公国域のエルサワ諸島で、母方祖父母の領地の地下鉱路から出てきた石板。 ジュナと同じく融合獣と融合する仲間と共に対立する謎の組織、ダンケルカイザラント――。 彼らは惑星アルイヴィーナの何処かに眠る融合獣強化の秘伝を探している。ジュナの方が秘伝書とおぼしきこの石板を入手することが出来た。だが文字がかなり古いものなのか、アルイヴィーナ以外の星から流れてきた物か、解読難であった。 だからジュナはエリヌセウス以前の国籍や人種の違う仲間たちの協力や援助も受けて、ダンケルカイザラントよりも早く融合獣強化の秘伝を解読しなければ、と焦っていた。 ジュナたちは融合闘士(フューザーソルジャー)でありながら同じ国立エリヌセウス上級各員の学校生のため、学校に行ったり、家事をしたり親の稼業を手伝ったりしなければならず、解読の時間は平日は一〜二時間、休日でも四時間が精いっぱいだった。 「はふぁ……」 ジュナは欠伸をし、うとうとしだす。 「ジュナ、石板を手に入れてからまともに長く眠っている日はなかったろ? 休日ぐらいは昼寝したらどうだ? まぁ、テスト期間は幸い追試や補習を受けずにすんだんだからよ」 「うん……。ラグドラグが言うんなら……、そうする……」 そう言ってジュナは机から離れ、ごろりとベッドの上に寝転がり、寒くなったので羽毛布団をかけて少しだけ昼寝することにした。 * 「う……ん……」 ジュナは目覚めて、布団から這い出る。気づけば夕方になっており、曇天だった空はいつの間にか晴れ、夕方をしらせる琥珀色の空と山吹色の夕日になっていた。雲が割れたようになっており、ジュナはその眩しさで目覚めたのだった。 「うわ、いつの間にか夕方に……。そういや、ママから夕飯作りを頼まれていたんだっけ。今すぐ始めなきゃ……」 ジュナが布団から飛び出そうとした時だった。ジュナは気づいていなかったが、ジュナの右手首にはめている金色のブレスレットの柘榴石(ガーネット)が夕日の光に当たり、その光が石板に当たって、そこから一つの幻影が出てきたのだった。 それは緑の大地と山に囲まれ、碧天の下に白い石造りの街で、今のアルイヴィーナとは違う文明のようだった。街の様子は店や住宅は小さな一〜二階建てが多く、大きな建物は下が正方形で上が四角すいの物が多く、そして道を歩き人々はというと……。 「ああ?」 ジュナが手首の角度を変えると、幻影は消え去り、夕焼けが激しく眩しいのを目にして、天窓のシャッターを閉めたのだった。 「あーあ、今日の晩御飯は何作ろ……」 ジュナは自分の部屋を出て、一階の台所へと向かっていった。 次の日の朝、ジュナは黄色いベスト風ワンピースに黒いインナーシャツ、黒いデイパックを背負って、自身の通うエリヌセウス上級学院へと向かっていった。街中は様々な髪や眼や肌、男や女や子供や青年が各々の職場や学校へと行き、頭上には一般人を目的地まで運ぶ集団運送車(グルーピー・カーガー)や個人が操縦する様々な色や型の小型浮遊車(カーガー)、様々な色や形の店舗や住宅、低層ビルと同じ高さの筒間鉄道(チューブライン)駅にはこの地に乗り降りする人が歩いたり駆けていったりしていた。空は晴れを現す碧色で白金の太陽、白い雲が夏よりも多かった。ヒュルリと西風が吹いて、街路樹や家の庭木の枯れ葉を浮かせた。 ジュナの通う、エリヌセウス上級学院はすり鉢状の地に建てられたクリスタルアークル材の硬化パーツの塔を何本も重ねたような建物で、十一歳から十七歳までの少年少女が各々の特技や能力に適った学科に入って学習していた。ジュナはそこの普通科四年生である。ジュナのように学校と家の距離が近いために徒歩の者もいれば、筒間列車や集団運送車(グルーピー・カーガー)で通う者もいた。 「はーっ」 ジュナがため息を吐きながら校舎に入っていくと、後ろから声が飛んできた。 「ジュナ、おはよー」 「おはよー、ジュナちゃん」 振り向いてみると、ジュナと同じ中間肌に紺の長い髪に褐色の眼の長身の少女、ラヴィエ=ネックとジュナと同じ背丈にオレンジ色のボブカットに青緑の眼の少女、ダイナ=タビソが立っていたのだ。 「ああ、おはよー……」 ジュナは半ばぼんやりしながら半ばはっきりしながら同じ学年で同じ普通科の同級生に声をかける。 「ジュナちゃん、何か眠たそう……。七年生にはなっていないけど、今から名門大学の受験勉強でもやっているの?」 ダイナが尋ねてくると、ジュナは首を振った。 「ううん……。お父さんの供養を終えてから、ずっと調べ物をしていて……。追試も補習も受けなくて済んだけれど、試験期間と重なって……」 ジュナは眠たそうな理由を二人に話した。この二人はジュナがエリヌセウス上級学院に転校してからの友人で、ジュナと違い融合適応者ではない。おそらく、融合獣や融合闘士、そしてジュナが持っている融合闘士強化の秘伝にまつわる石板の文字の内容、これらはラヴィエとダイナにわからないだろう、と。 「手伝おうか?」 ラヴィエがジュナに問うと、ジュナは顔つきを変えて、ハッとした表情になる。 「いや……、それは大丈夫。そうだ。一時間目は数学でマードック先生に叱られちゃうよ。さぁ、行こう」 ジュナはラヴィエとダイナに余計な心配をかけさせまいと元気そうに振舞った。もしかしたら、いずれダンケルカイザラントはジュナの母親や学校のみんなを狙うのではないかと思って。 一時間目の担任であるマードック=ケイン先生の数学、次に世界史、その次が昼休みで食事と休憩をとった。昼休みは階段状の教室で手作りの弁当や食料品店で買った弁当を食べて過ごしたり、食堂で定食を食べる者に分かれていた。 様々な学科や人種の生徒が販売機で食券を買って厨房と繋がっている受け取り口で注文した定食を受け取って四人座りの席に着いてご飯類や麺類やモグッフ(パン)を食べてお喋りや学科に関する話題を語り合っている中、奥の一角でジュナは昨日作った夕食のおかずを弁当にして、三人の融合闘士仲間と一緒に食べていた。 「それで、まだ解読に時間がかかるんですか?」 肩まである白群の髪、薄桃色の眼に白い肌、北東大陸の主民族和仁(わと)族が着る前合わせの衣の少女、宗樹院(そうじゅいん)羅夢(らむ)がジュナに尋ねてくる。羅夢は二ヶ月前にエリヌセウス上級学院に入学したばかりであった。羅夢は長方形の赤塗りの弁当箱の緑(ヴェルナ)米(リッケ)の炊き込みごはんを箸でつついていた。炊き込みご飯には鳥肉や豆や茸が入っている。 「うん。早くしないと、ダンケルカイザラントに盗られるような気がして……」 ジュナは昨日の夕食のおかずである牛肉の辛味野菜炒めと白米(ヴィッテリッケ)を先割れスプーンですくって食べていた。 「いや、ダンケルカイザラントは僕たちの家や学校なんて把握してないから、それはないと思う。ただ無関係の人は巻き込んでほしくないね」 短いプラチナブロンドに深緑の切れ長の眼、中間肌に緑色のジャケットがよく映える黒一点のエルニオ=バディスがフォークで弁当箱の豚の腸詰を強く突き刺した。このエルニオはジュナが亡き父の供養期間の時に、自分の旧友をダンケルカイザラントのせいで喪っていたのだ。それ故、エルニオのダンケルカイザラントへの憎しみはとてつもなく大きかった。 「……やっぱさ、私が知り合いに頼んで送ってもらった古代ディヴロイド文字は何の関連性もなかったり……する?」 中間肌にジュナたちより高めの背に薄紫の長髪を青いリボンで束ね、薄青い目に青いボレロに白いジャンパースカート姿のトリスティス=プレジットが穏やかに尋ねてくる。トリスティスは南国の出身で、酢漬けの生魚に辛味の炒飯を食べている。トリスティスは四人の中では年長の六年生である。 「いや、トリスティスさんの知り合いが探してくれた古代ディヴロイド文字のおかげで、七文字くらいは解読できましたから。そこんとこはありがとう」 ジュナはトリスティスに礼を言う。トリスティスは海辺や水辺に多く住む種族、水棲人種(トリスティス)の血を受け継いでおり、服で覆われているが、水棲人種の証である肩と大腿部の青い三本線と背中にえらがあるのだ。ジュナが持っている石板の秘密を解くために、南国で暮らしていた時の古い知り合いを通じて、古代文字の写しを手に入れたのだった。 「まぁ、もう少しだけ頑張ってみるよ。疲れたらしばしの間、置いてみる、っていうのもありだし……」 そう言ってジュナは食堂の自販機で買ったテトラパックの甘茶をストローで飲んだのだった。 * 昼休みが終わって三時間目、四時間目の授業、校内清掃、HR(ホームルーム)と続いてクラブ活動と委員会に所属している生徒以外は帰宅する。まぁ、帰宅といっても文具店で新しい筆記具を買ったり、帰宅途中で小じゃれた茶店でお茶やお菓子を食べたりと様々だった。 ジュナは駆け足で家に帰っていき、ゆっくり歩いて家や最寄りの駅や停車場へ向かう生徒、営業や集金で住宅街を歩き回る会社員の間をすり抜けたりと、必死だった。 エリヌセウス上級学院から南下へ十分ほど下った先の住宅街の一角である白い邸宅へ着くと、鍵代わりの本人指紋確認の板に自身の手を置いて、ポーチの玄関が開いて、ジュナは中に入る。 「ただいまー」 半ば息を切らしながらも、靴を脱いで洗面所でうがい手洗い、居間と通じる二階への階段をかけ上り、ジュナは自分の部屋へ入る。 「おう、お帰り。大丈夫だ、石板はこの通り無事……」 ラグドラグがジュナに石板を見せ、ジュナは通学用のデイパックを机の上に置くと、アルイヴィーナ各地の古代文字の写しを教科書と事典の間から出して、石板の物と一致するものを探しながら解読する。 「相変わらず熱心だな。ん……?」 ラグドラグは机の角に置かれたジュナの宝物である金のブレスレットに目をやる。手首を覆う形状に竜と有翼馬の彫りが刻まれたブレスレットは、三ヶ月前の夏休みに開催された融合適応者限定の格闘大会、融合闘士格闘大会に参加した時、ジュナが五歳の時に行方不明になった兄・レシルからの贈り物で、それ以来ずっとジュナの宝物の一つになっている。 「こんなとこに置いておいたら、落っとこして傷ついたらどーすんだ……」 そう言ってラグドラグは落ちないようにブレスレットを机上の奥へ動かした時だった。天窓から見える日光の射光が偶然ブレスレットの宝石に当たり、更に宝石からの屈折光(プリズム)が深いピンクの光の筋となって石板に当たったのだった。 ――そしてその反射光と石板が一つになった時、まばゆい深いピンクの光が発せられ、ジュナとラグドラグの周囲は明るいピンクの激光に包まれたのだ。 「な……!?」 二人はその眩しさのあまりまぶたを閉ざした。 光の眩しさが感じられなくなると、ジュナはそっとまぶたを開けた。机やコンピューターやベッドや放送用の映像モニターや図鑑などの本がある自身の個室ではない見たこともない景色だったのだ。 空は碧空で空の真上には白金に輝く太陽、雲が千切れた紙のように浮いているエリヌセウス皇国の空――だと思われていたが、地上は全く違っていたのだ。 緑の稜線を描く山、山よりは明るい緑の広い平原には生成の石畳みの道に下が正方形で上が半円の白い家々がいくつも並び、その中心には巨大な四角い段状に円筒と三角屋根の建物があり、その四方に生成色の道が広がっていた。人々も明るい髪や眼や白い肌の老若男女が街を歩き、中衣が黒や青の濃色で上衣が白や黄色などの薄色の服をまとい、靴はサンダルかオープントゥの靴で、幼い子供は公園らしき場所で鬼ごっこや糸毬で遊び、それより大きい子らは学校と思われる施設で横長の机と椅子に着いて四角い板で文字や数字を記入していた。 だが、それよりももっと驚いたのは、大人の方である。というのも背の曲がった老爺から荷物を受け取った青年はてっきりてくてく歩いて地道に目的地まで歩いていくか飛脚で駆け足で行くものだとジュナとラグドラグは思っていた。すると青年は一匹の翅の付いた虫を指先で泊らせると、体が薄い色の光に包まれ、何とその虫と融合して両目は複眼で四肢には昆虫のように節があって背に蜻蛉(ドリフリィ)と同じ四つの横長の翅を持った姿に変化して、老爺から渡された木板の箱を持って翅を震わせて飛んでいったのだった。 「なっ……んだ、今のは!? あの蜻蛉(ドリフリィ)は融合獣なのか?」 ラグドラグが蜻蛉(ドリフリィ)と融合して老爺から渡された荷物を飛んで運んで行くのを目にして仰天した。 「いや、それだけじゃないみたい……。ほら、あれなんか……」 ジュナが別の光景を目にして、ラグドラグに言う。街中の道路に四角い箱に四つの車輪がついた乗り物、おそらくアルイヴィーナ星ではわずかな内陸の地域でしか見られなくなった馬車で、しかもその馬車には白い馬しかつながれてなかったのだ。二人の幼い子供を連れた母親が馬車に乗り込んだ後、ジュナは一頭の白馬だけで馬車を引ける筈がないと思っていたところ、馬車の御者である青年が馬と融合して、何と上半分が馬の頭部と手紙を持つ人間で下半分が馬の四肢を持つ白い融合闘士に姿を変え、馬車を引いて走り出したのだ。それだけでなく、街近くの川辺では漁夫の男が銀の鱗の魚と融合して川の中へ潜ったり、少女が黄色い小鳥と融合して鳥人間になった姿も見られた。 「うそ……。てか、何なの!? この光景は!!」 ジュナが驚いて街の景色に見とれていると、茶色い毛の犬(フュンフ)がジュナの方に向かって走ってくると、ジュナの体をすり抜けて走っていったのを目にした。 「え、どういうこと?」 「これは幻影だよ。俺とジュナは幻影の中にいるんだ……」 ラグドラグがジュナに言うと、今度は天空から不思議な声が聞こえてきたのだ。若々しくも落ち着いたような男の声である。 『――私たちの住む星とは違う星、もしくは違う次元の者たちに伝える。この星の名は惑星フュージタル。支配種族の名はフェズナー。 フェズナーとは、我々の言葉でフュージ"融合"とヒューナー"人間"からきている。 我々フェズナーは誕生した時から、鳥や獣や虫や魚などの他の動植物と一体化して文明や文化、人々の暮らしを築き上げてきた。 恐らく、フュージタルを誕生させた惑星神が他の惑星の支配種族にはない力を授けてくださったのだろう。平穏な暮らしをよりよくするために、危ない仕事で決して死なせないために、そして外部からの侵略者と戦えるように、と与えてくださったのだろう――』 天の声を聞いて、ジュナとラグドラグは呆然としていた。自分たちの知らなかった人種や文明や出来事に。そして天の声の語りは続く。 『私はある時、察した。フュージタルに巨大な隕石が落下してきて、人々も他の生物も建物も文化も文明も隕石との衝突で砕け、燃えて崩れて滅んでいくのを。 更に一度滅んだフュージタルが後に新たな世界に生まれてくるのを察した。 硝煙に覆われた赤い空、灰と砂と石ころまみれの大地、泥と灰まみれの水だった世界がわずか数年で空気を浄化させ。荒れ果てた地に草や木や花が芽吹き、濁った水が澄んでいくのを! そしてフュージタルを滅ぼした隕石は六つに砕け、私の生まれ育ったウルティマポリスのあった大陸が中心で、砕けた隕石は北に三つ、南に三つの大陸となり、更に隕石に着いていた微生物が水辺や山や森や地中で独自の進化を遂げて魚や鳥や獣や虫に進化、そして人類も生まれ、地域によって髪や肌や眼、言葉や文化の違う人種に幾多も分かれていった。 そしてこの星は名付けられた、"生命"を意味するアルイヴィーナと。 私はここでフュージタルの記録とフュージタル滅亡後の予言まで終わらせるつもりだった』 「つもり……だった?」 天の声を聞いて、ジュナは首をかしげる。そしてわかったのだ。エルサワ諸島で見つけた石板はアルイヴィーナより大昔の文明の記録と予言書であることが。天の声はまだ語り続ける。 『それはフュージタルが滅んで五十万年先の未来で、二人の科学者がアルイヴィーナ生として生まれ変わったこの地で、フェズナーの化石を風雨や地震による影響で出てきたのを見つけて研究の末、フェズナーが他の生物と融合することで別の姿に変化し、性能も変わることに気づいた。 その科学者らは人工生体や急速再生組織といったアルイヴィーナの科学技術で新たな人工生物を創造したが、共鳴石(リンカイト)と名付けられたフェズナーの化石に動物の遺伝子情報を組み入れたり、人工生体に動物の脳を移植したりしたが、とても生命維持が短かった。 そこで科学者らはアルイヴィーナ星より強大な異星の軍隊の侵略が来たのを利用し、アルイヴィーナ星の兵士たちの瀕死者や重傷者を溶解して、融合獣の人格・知性・動力源死したという実験を行い、融合獣になったアルイヴィーナ人は記憶も改変され、長いこと人間だったことを忘れ、かつての家族や友人も喪っていた事実を経験するようになっていた。 私は思った。フュージタル星が滅んでしまうのは仕方がない。巨大隕石についていた微生物が進化して新たな世界の生命になることも自然の摂理だと感じた。 だが三つ目の章――。フェズナーの化石から生物兵器を生み出すという未来は外れてほしかった。 私は石板にフュージタル星の記録と二つの予言を刻むことにした。誰にも公表せず、フュージタル星の地中奥に埋めた。 それを見つけるのは異星の者か、異次元の者か、はたまたアルイヴィーナ星の者か。 願わくは、清く正しい者に見つかることを祈って……。 フュージタル星エタリティス帝国 フュージタル暦六八二年冬染め月の三日目 庶民の星読み師 ハウル=アーギス』 天の声が終わると、フュージタル星だった頃のアルイヴィーナ星の一国の幻影も消え、ジュナとラグドラグは白い壁に机やベッドなどの家具、コンピューターに天窓があるジュナの部屋の中にいた。 「これが石板に刻まれた内容……!!」 ジュナは自分たちの身に起きた体験が信じられず、呆然としていた。 「そうか、このブレスレットの宝石を日光に当てて、その屈折光(プリズム)の光線が石板に反応して映し出されたのか……。 じゃあ、この石は記憶刻石(メモリタイト)でジュナのブレスレットの宝石は読解光珠(リーデライタイト)か……!」 ラグドラグが石板と宝石の秘密を解くと、ジュナが尋ねてくる。 「メモリタイトにリーデラ……? その鉱石の名前、知らないよ?」 「まぁな……。あんまり世の人からは知られてないからな。俺がアルイヴィーナの志願兵だった頃、連絡手段として使われていたからな」 融合獣になる前は二〇〇年前のアルイヴィーナ人で、当時の侵略者ガルザイダ星人の軍団と戦うために兵士となったラグドラグは、ジュナにメモリタイトとリーデライタイトの用途を教えてあげた。 メモリタイトは一見色付きの花こう岩と変わらないが、石に絵や文字を刻むことで刻んだ主の念が石に移り、敵には一軒意味不明な石板にしか見えない。しかし、リーデライタイトの日や月といった自然光を石の中に入れると、石の中で屈折光(プリズム)が出来てその光がメモリタイトに当たると、石に刻まれた文字や絵の主の念を幻影として映し出してくれるのだ。 「機械技術はガルザイダ軍の方が格上すぎたからな。妨害電波や盗聴されないように工夫をこらしたんだ」 「そんなことがあったんだ……。だとすると、お兄ちゃんはブレスレットの宝石がリーデライタイトって知っていたのかな?」 ジュナがブレスレットの宝石を見つめて首をかしげる。 ジュナは五歳の時から兄の記憶を失い、十三歳の誕生日を迎える前に、兄のことを思い出して幼少の頃に住んでいたアクサレス公国で兄の手がかりを探しに行った。 その後、謎の闇組織、ダンケルカイザラントが現れ、巨大人工生物(ブレンダニマ)や機械兵(インスタノイド)、更にはダンケルカイザラント所属の融合闘士や幹部まで現れたのだった。 しかし、ジュナの前に一角有翼の融合闘士も現れ、ジュナの危機を何度も救ってくれたのだった。この石板を手に入れたエルサワ諸島でも彼と出会った。そしてジュナは確信したのだった。 「そいでよ、エルニオたちにも見せる訳? 石板のからくりと解読方法を」 ラグドラグが尋ねてくると、ジュナは軽く呻ると、ジュナと同じ学校の融合闘士たちにも教えることにした。 「うん、見せないといけないね。今のうちに。今日見つけたことは早いうちに教えた方がいいしね」 ジュナは白い折りたたみ式の携帯電話を出して、電子メールで今日の出来事を文書として送ったのだった。 これからが新たな試練の幕開けだとも知らずに。 |
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