乃江美たちはそれぞれの階を調べて公民館の中を探し回った。舞風は一階を探索し事務室では職員たちがパソコンのデータ入力をしていたら電源が切れたことに騒ぎを起こしているのを見聞した。梢は二階のまだ入っていない箇所を探したが、デラツウェルクの存在が反応しなかった。 乃江美は三階を調べ、ほとんどの部屋は閉ざされていたけど配電室はロックがかかってなかったので思わずノブに手をかけた時だった。ガチャ、と白塗りされた鉄の扉を開けると、十数体のブリキやスチールを思わせる銀色の小さな人形が出てきたのだ。 乃江美はあっという間に手足を押さえつけられ身動きが取れなくなるが、チラとゾゾがリュックから出てきて乃江美のサーゲストウォッチの小人化の柄文字盤を触れさせて、乃江美は黄金色の光に包まれて小人の大きさとリノーマサーゲストの姿に変化した。 「た、助かったぎゃ〜」 乃江美はチラとゾゾのおかげで金属人形たちに捕らえられずに済んだことに安堵する。 「でも気をつけてね。金属を操るデラツウェルクがいるから」 チラが乃江美に注意した。乃江美を襲った金属人形は昭和の漫画に出てくるような丸みを帯びたシンプルな外観だった。何で動いているかわからないとはいえ、キリキリと音がしてくる。すると配電室の奥に一人の小人――デラツウェルクが現れる。 そのデラツウェルクはラヴィアーネよりは低いがそれなりの背丈で人間なら百七十センチ半ばだろう。体は上下を合わせた台形型で筋肉質で灰色のボディスーツの上に黒い肩や胸や腰を覆う部分鎧、他のデラツウェルクと違ってサークレットではなく三本角の黒い兜をかぶり何より目と口がむき出しの銀のマスクを顔につけていた。 「よく来たな、ルチェリノーマの伝説の戦士となった人間の小娘よ」 落ち着いているが冷酷な低い声だった。乃江美はそのデラツウェルクに尋ねてくる。 「あんたが公民館の停電を起こしたデラツウェルクなの? それにこの金属人形も……」 「そうだ。おれが持っているのは〈誠鉄玉〉。どんな金属も操れる」 その時、人間大の梢と舞風もかけつけて、配電室の様子を目にして黒い鎧のデラツウェルクが金属人形の群れを率いているのを確かめる。 「乃江美!」 舞風は乃江美たちがピンチだと知ると、梢と共にサーゲストウォッチの赤い 〈変化〉の盤に触れて緑色と薄紅色の光に包まれて小人化とリノーマサーゲストの姿に変わる。 「ほう、三人とも女子(おなご)だったのか。アッターカたちを追い返した人間の戦士がどんな輩かと思いきや意外だったな」 デラツウェルクの言葉に挑発をかけられ梢は武器の棍棒、舞風は鉄扇を取り出して構える。デラツウェルクは左手を上げて指先をクイと動かして、金属人形が乃江美たちに飛びかかってきた。人形兵の奇襲を目にして、乃江美は剣を抜いて剣に電流を走らせ、人形たちを一体二体と打ち倒し、梢は棍棒を振るって人形を叩くも人形はすっくと起き上がって梢に向かってきた時、舞風が扇を振るって人形兵を吹き飛ばして梢を守った。 「なかなかやるな。だが我が能力は金属をこんな風に操れる訳ではないぞ」 そう言ってデラツウェルクは右手を上に向け指先を折り曲げると、人形兵が変形して斧やハンマーなどの凶器に変化してきたのだった。 「うっそ、マジで!?」 舞風が人形兵の変わり様を見て声に出す。 一方で乃江美たちのいる配電室に足を向けてかけている人物がいた。アナログゲーム大会のレクリエーションルームから抜け出た三人の行方が気になって彼もゲーム大会から抜け出してきたのだ。停電になるし、大会は中止になるし、これは公民館の中で起こっていることだとその人物は察して公民館内を駆け回っていたのだった。 配電室にいる乃江美たちはデラツウェルクの人形兵が変形した武器からの攻撃と応戦中だった。斧は乃江美に向かって振り下ろしを繰り返してきて乃江美は剣から電撃を放って斧の攻撃を防いだり、背後から鉄串が降ってきたのを目にやると電撃を周囲に発して電気の防壁を作って防御した。梢は鎌が自分の方向へ来ると棍棒を床に立てて木の盾を出すが、鎌は木を斬り裂いてきて梢は追い詰められるも舞風が鉄扇を振るって風の刃で鎌の刃を防いでくれた。 「どうやら金属の技は梢には不利のようね。あたしが支えてあげるから」 「あ、どうも……」 チラとゾゾもハンマーやトラバサミに追いかけられ、ゾゾは乃江美のリュックから出た時に青いサーゲストウォッチを抱えていた。というのも、公民館内のゲーム会場でサーゲストウォッチの〈賢水玉〉が反応を起こしていたからだ。 「ああっ!」 ゾゾがつまずいてサーゲストウォッチが手から離れて配電室の外の方に滑っていった。チラとゾゾは凶器の群れに追いつめられ、もう駄目だと思った時だった。 シュンシュン、と水の矢が飛んできて凶器の群れに当たると、ハンマーやトラバサミは一瞬で錆びが表面についてガシャンと床に落下した。 「い、一体誰が……」 ゾゾが後ろを振り向くと、そこに一人の少年が立っていたのだ。暗緑の髪に水色の眼、藍色の襟の立ったベストに水色の鱗模様のシャツ、ベストの下から白いガードロープが出ており、青いスリムパンツに紺色のショートグローブ、足元は紺色のブーツ。頭部に金色のサークレットがはまっているが乃江美たちのと違う点は水色のバイザーが付いていることであった。手には銛と水が両方発射できる青い銃を持っていた。 「き、君は最後のリノーマサーゲスト?」 ゾゾが自分たちの前に現れたリノーマサーゲストを目にして尋ねてくると、その少年は銛と水の矢を同時に発射してきて水に包まれた銛が次々とデラツウェルクの出した凶器に当たっていく。すると水浸しの凶器は次々に錆ついて動きを止めていく。 「よくわからないけど、助かったがや〜」 乃江美が助っ人の登場に胸をなでおろし、梢と舞風も少年の狙撃の正確さに感心する。自分の雑兵を倒されたデラツウェルクは少年のリノーマサーゲストを見て舌打ちする。 「チッ。折角おれ一人で娘三人を追い詰めることが出来たというのに……。都合が良すぎる」 そう言うとデラツウェルクは自分の武器である白銀の銃身の長い銃を出してきて少年に銃口を向けてきた。黒鉄の弾丸が三発、少年に発射されてきたが、少年は自分の左胸に付いたサーゲストウォッチの〈賢水玉〉に力を使って水の弾丸を三発放った。水の弾丸は水圧によって黒鉄の弾丸がひしゃげて、更に少年が銛を一発デラツウェルクに向けて撃ち放つ。デラツウェルクは銛が当たる前に〈誠鉄玉〉の力で自分の左腕の手甲を盾にして、少年の攻撃を防いだ。――のだが、盾が貫通してしまい、銛の先がデラツウェルクのマスクに当たって真っ二つにマスクが割れて、カランと左右に落下して音を立てた。 デラツウェルクの素顔は端正な顔立ちの男で人間なら二十代前半で、つり上がった眉にハヤブサのような眼は暗灰色で兜から出ている前髪は白かった。 「あ、あなたはルチェリノーマの王宮で女王さまに仕えていた大臣の……」 ゾゾがデラツウェルクの素顔を見て叫んだ。 「え? 何? 知り合いなん?」 乃江美がゾゾに訊くとチラが答えてくる。 「あのお方はパナケイア女王に仕えていたヌフリエレさま! 随分前に行方不明になっていたのは知ってたけど……。どうしてデラツウェルク側に!?」 「てことは裏切り小人!? どういうことよ?」 舞風も思わずチラとゾゾに訊いてきた。 「ヌフリエレはもういない。今のおれはデラツウェルクのヌッレだ」 ヌッレはそう言うと、左手を上げて凶器たちを起き上がらせた。すると凶器は次々に起き上がって一つにまとまり、金属のハヤブサに姿を変えて、その背にヌッレが飛び乗る。 「今回は引き上げる。また会おう」 そう言ってヌッレは〈誠鉄玉〉の力で金属のハヤブサを動かして、配電室の半分開いた窓から逃げ出して、乃江美たちもその様子を見て立っていた。 「ルチェリノーマの女王さまの大臣だった小人がデラツウェルクだったのはどうして……」 梢もデラツウェルクの正体がかつてはルチェリノーマだったことに衝撃を隠せなかった。それから乃江美は自分たちのピンチに現れた少年に目を向ける。 「さっきはありがとじゃん」 乃江美に声をかけられて、少年は口を開いてこう言ってきた。 「あの……何でぼくはこんなことになっちゃんだんだろう?」 彼は自分の変わり様を乃江美たちに尋ねてくると、乃江美は自分のサーゲストウォッチを叩いて教える。 「ああ、これのことね。停電が起きてゲーム大会が中止になって、そしたらいつもとはおかしな感じがして三階の廊下でこれが見つかって手に取ったら小さくなって変身してて……」 彼は簡潔に自分の身に起きたことを乃江美たちに教えたのだった。その人物は智吉澄季だったのだ。 「智吉くんが四人目だったんだが……」 乃江美たちにとっても予想外だけども好都合なことであった。 その後四人は小人化と変身を解除して、乃江美・梢・舞風は澄季に自己紹介をする。 「あたしは六年三組の勇崎乃江美。最初にリノーマサーゲストになったんがや。よろしく」 「わたしは六年二組の安食梢。よろしくね」 「あたしは中等部二年の望多舞風」 それから乃江美の手の上のチラとゾゾを紹介する。 「あたしはチラ。ルチェリノーマの女王さまの使いよ、よろしく」 「おいらはゾゾ。同じく女王の使いだ」 澄季はネズミとトカゲ姿の小人を目にして、はー……となって感心する。 「それじゃあ改めて、ぼくは智吉澄季。いきなり小人の戦士になっちゃったのは驚いたけど……、よろしく」 澄季は乃江美たちに自己紹介する。その後、乃江美は従兄の陽司を置いてきたことを思い出した。 「陽司兄ちゃん、忘れとった。勝手に抜け出していったこと、教えんと……」 「そしたら今行きましょ。まだ公民館にいるかもしれないし」 舞風がそう促すと四人は三階の配電室から別の場所へ移動していった。陽司は一階のロビーのソファーに座っており、乃江美たちが姿を現したのを目にして顔をしかめるも、乃江美たちが公民館にいたことを知って安心したのだった。 「いきなりいなくなるなんて、おれは父さんたちにどうしたらいいか悩んでいたんだぞ?」 「ごめんなさい、陽司兄ちゃん。停電の原因を探しに行ってて……」 「お前もおかしなことやるな……。もうすぐ暗くなるし、帰るぞ」 陽司は乃江美を連れて、乃江美も梢と舞風と澄季と別れた。 今日は二つの予想外を体験した乃江美とチラとゾゾであったが、〈誠鉄玉〉を持つデラツウェルクがルチェリノーマの女王に仕えていた大臣で何故裏切ったのかということであった。倉橋家に戻って乃江美が帰宅してからの勉強と家事を終えて自分の部屋でチラとゾゾと会議し合った。 「デラツウェルクのヌッレがルチェリノーマの女王さまに仕えていたにもかかわらず、デラツウェルクについたのが気になるということがや」 乃江美はチラとゾゾにそう言うと、チラとゾゾも考えてこう諭してきた。 「おいらたちだってそこまでは思い浮かばないよ。今度女王さまに聞いてみよう。そうすればヌフリエレ大臣がデラツウェルクについた理由がわかるかもしれない。その時は澄季も来てもらって」 ゾゾは乃江美にこう言ってきたのだった。 |
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