守要玉を八つ納めることで暁台を滅ぼし、小人の楽園を創り直す『破生の盤』を発動させようとするデラツウェルクを止めるために、光の小人ルチェリノーマの伝説の戦士となった乃江美・梢・舞風・澄季の戦いが始まった。 アッターカは三日月型の二刀流を出してきて乃江美に炎の刃をいくつも空中に出現させて、炎の刃が乃江美に向かってきた。乃江美は剣を出して直線状に立ててアッターカの炎の刃を防いだ。乃江美の剣から出た黄金色の電撃の盾がアッターカの炎を防いで雷と炎がぶつかり合うと黄金色と赤の波動が爆ぜた。 ラヴィアーネが一度は乃江美を追い詰めたが自分に妨害をけしかけてきた梢に再戦を仕かけてきた。ラヴィアーネは地面に埋まっていた石を片手で掴んで放り投げて更に左腕の手甲についた〈闘地玉〉の力で石を操って梢の方に向けて飛ばしてきた。梢は危険を察すると、棍棒を地面に突き立ててサーゲストウォッチの〈安樹玉〉で近くの木を操って、梢の足元に木の根が生えてきて後ろの木に絡まっていた蔓を動かして、ラヴィアーネは梢の操る蔓に縛られる。 デリョーラは槍を振るって氷の矢を出してきて舞風に向けて撃ち放った。舞風は扇を振るってデリョーラの氷の矢を強風で砕いた。 「空気圧破(エリアルバースト)!」 氷の矢をかき消されたデリョーラは今度は矛先を真っ直ぐにして無数の氷柱を出して飛ばしてくるが、舞風は〈希風玉〉の力を使って旋風を起こしてデリョーラの氷柱を溶かしたのだった。舞風の熱風を浴びてデリョーラは後退する。 ヌッレは澄季と戦い、手甲に埋められた金属片に手裏剣の紋章の黒灰色の〈誠鉄玉〉の力で空中に白銀の手裏剣や丸鋸を出してきて澄季に飛ばしてくる。斬りつけられまいと澄季はサーゲストウォッチの〈賢水玉〉の力を発して自分の武器の銛銃・ネレイスカレントを出して真上に銛の先から水の防壁を出してヌッレの攻撃を防いだ。水の防壁によって手裏剣や丸鋸は水圧によって速度が一気に落とされて地面に落ちた。 四組の戦いを目にして遠くから身を隠しているチラが過激派の小人デラツウェルクとなったヌッレ一味の平均的越えの強さの他にも、人間でありながらルチェリノーマの伝説の戦士である乃江美・梢・舞風・澄季が最初の頃と違って進歩していると察した。 (デラツウェルクとなったヌフリエレたちは火と地と霜と鉄の守要玉が彼らの悪気に同調して彼らに破壊の力と姿と、デラツウェルクとして相応しい名前を与えた。その古代の文献の通りになってしまったけれど、乃江美たちがヌフリエレを止めてくれることになった。 それでも、裏切り者の小人と他の小人同士が戦い合うよりはいい) チラは執事のモルから教えられた守要玉の故事を思い出し、乃江美たちを見守る。 「くそっ、思っていたよりあいつら手強くなってんな……」 ラヴィアーネが以前よりも強さが増した乃江美たちをやり合って呟く。その時ヌッレが他のデラツウェルクたちに言ってくる。 「そこまで油断する必要はない」 ヌッレは左腕の手甲の〈誠鉄玉〉を発動させ、金属のカラスが変化した銀色の膜の杭が変化して杭から無数の鎖が出てきて乃江美たちの腕や脚や胴を縛ったのだった。その光景にアッターカ・ラヴィアーネ・デリョーラも仰天する。 「ヌッレ、これは?」 デリョーラが訊いてくるとヌッレは答えてくる。 「おれは近くに金属があればわざわざ〈誠鉄玉〉から出さなくても問題ないということだ。金属のカラスの後がここで役に立った」 「よし、今のうちに手に入れるぞ」 アッターカが縛られた乃江美たちから守要玉を取り上げようとした。チラが石を投げつけて止めようとしたが、ラヴィアーネが左拳で打ち砕いてしまった。アッターカは乃江美、デリョーラは舞風、ヌッレは澄季、ラヴィアーネは梢からサーゲストウォッチの守要玉を抜き取ってしまい、ヌッレたち四人のデラツウェルクは『破生の盤』に大跳躍で天頂まで上がり、チラが岩の上にかけ上って止めようとした。その時、デラツウェルクは『破生の盤』のくぼみに北回りから鉄・雷・炎・樹・地・風・霜・水の順に守要玉をはめ込んだ。 (しまった。守要玉が納められてしまった!) チラはその様子を目にして『破生の盤』の発動が止められなかったと立ち止まる。と同時に盤の中心が八色の光の玉を出してきて、その光の玉が宙にどんどん浮くと、盤から頭上十メートルの所で止まり、デラツウェルク、身動きできない乃江美たち、チラは光の玉の様子を見つめる。 光の玉は純白の激しい光を放ち、その眩しさに誰もがまぶたを閉ざした。白い激光は扇状に暁台の町や家や森や人々や動物たちを包み込んだ。 「う……。ここは……」 『破生の盤』から出てきた光によって気を失った乃江美であったが、柔らかな虹色の空間の中にいたのだ。リノーマサーゲストの姿でヌッレによって縛られていた鎖がほどかれ、乃江美の周囲には泡のようなものが浮かび上がっているのを目にした。その泡の一つ一つが暁台に住むに人々や動植物、ルチェリノーマの姿が映し出されていた。その泡は生命の記憶で、学校にいたり家の中だったり公園だったりと多種多様の思い出があった。中には譲太郎伯父さん、素子伯母さん、猿田さん、浜金谷頼子の記憶もあった。 伯父さんは息子の陽司に華道を教え、伯母さんは公民館で和裁の講習を教え、猿田さんは夫が亡くなり子供たちも成人して一人になると伯父さんのはからいで倉橋家の家政婦となった思い出で、頼子は幼い頃から両親や祖父母に溺愛されていた記憶であった。 (浜金谷さんに訊いたり言ったりせーへんとな……) 他にも乃江美と出会った頃のチラとゾゾ、梢はフラワーアートの研究、舞風は母が出ているドラマの視聴、澄季は同級生とボードゲームしている記憶だった。仲間たちの記憶を目にした後、乃江美は恐ろしくも悲しい記憶を目にする。 それは緑豊かな森や野原がブルドーザーなどの重機で荒らされ、ショベルカーが山を削りダンプカーが土砂を運び、森や野原のあった場所に次々とビルや家や市役所などの大型の建物が建てられ、工場が出来ると排水が近くの川を汚し魚や水棲昆虫などの死骸が浮かび、煙突からは煙が排出され空気を荒ませた。 その暁台が造られていく様子を目にした四人のルチェリノーマたちがいた。今と違う姿だけど、髪や目の色や体格は同じでルチェリノーマの国の衣服をまとっていた。 それはまぎれもなくアッターカ、ラヴィアーネ、デリョーラ、ヌッレになる前のヌフリエレであった。ヌフリエレは大臣らしい縁取りされた白いガウンとボウタイシャツと紺のスラックスの服装であった。乃江美はヌフリエレの記憶の泡を見つめる。ヌフリエレの後ろにはパナケイア女王と執事長のモルが立っていて、ヌフリエレの前には更地に変えられたルチェリノーマの集落があった。 「人間たちがこの地に来てしまったのなら、わたしたちには別の場所に行くしかありません。守要玉の導きでこの地の特殊な空間にルチェリノーマの住処を創りましょう」 パナケイア女王はヌフリエレに諭した。それからルチェリノーマたちは特殊な空間に移ってルチェリノーマの国を建国していった。地上の楽園よりは広くはないが、浄らかな土と澄んだ水、清々しい空気、地上から持ってきた植物の実や種があればルチェリノーマは生きていくことが出来た。 しかしヌフリエレは地上の楽園を人間に奪われ、地上より狭い空間にいることに我慢がならず、王宮内の書庫にあった守要玉にまつわる文献を見つけて、更に『破生の盤』の情報も手に入れたのだった。守要玉の中には生命の美徳よりも強い徳を持つ者にも力を与えてくれることを。 ヌフリエレは王宮内の宝物殿の中にある守要玉の鉄・霜・地・火を奪い取り、王宮から逃げ出していった。その奪った一つ〈誠鉄玉〉がヌフリエレの徳に作用して、ヌフリエレは今のような黒い装甲をまとった武人のような姿になった。 ヌフリエレは自らを闇の小人デラツウェルクと称し、更にヌッレと名乗り、地上の楽園を奪った人間たちに怨みを持つ小人を探し、〈志炎玉〉、〈闘地玉〉、〈霜誇玉〉を与えてデラツウェルクとしての名と力を持つようになった。 (ヌフリエレがデラツウェルクとなり、アッターカやラヴィアーネもデリョーラも人間たちに恨みを持っていて復讐のために今の姿になったとは……) 乃江美はヌフリエレの気持ちは理解してやれるけど同情はしなかった。自分も両親と離れてしまったけど、今は仲間がいるからだ。それに暁台の人々の暮らしも消す訳にはいかなかった。 (『破生の盤』を壊せば元に戻るんじゃないのか?) そう気づいた乃江美だったが守要玉が納められた『破生の盤』の場所にあるかわからなかった。だが足元にかすかな八色の光が出ているのを察した。 北回りに黒鉄・黄金・真紅・緑・茶色・紫・桃色・青の光が放出されている暗い色の石板が乃江美の真下にあったのだ。 「あった、『破生の盤』! これを壊して暁台が消えないようにせーへんと……」 乃江美は『破生の盤』を見つけると空間の中を潜っていくように進んでいった。空間は水中か無重力のように動きづらかったけど、これ以上デラツウェルクの好きにさせる訳にはいかないと向かっていった。 乃江美があと十回こいでいけば『破生の盤』に届こうとするところだった。乃江美の前に火の玉が飛んできたのだった。急いで避けると乃江美の近くにアッターカが火の玉を三日月型の剣から出してきて現れたのだった。 「『破生の盤』には手出しさせんぞ」 乃江美はデラツウェルクの存在に油断していたと詰めの甘さを感じたが、更にデリョーラが冷気を出してきて乃江美を弱らせ、ラヴィアーネが筋肉のある腕で乃江美の左手首をつかんできた。 「そう簡単にさせるかってんだ」 それからデリョーラとアッターカの間に立つようにヌッレも現れる。 「言っただろう。暁台を一度滅ぼし、新たな小人の楽園に創り直すと」 乃江美は暁台になる前の小人の楽園を人間たちの町開発で失い、ヌフリエレたち人間たちを憎む小人たちはデラツウェルクになってしまったことを記憶の泡で見ており、だけども暁台の人々や生物まで巻き添えにしてはいけないと理解していた。 その時、どこからか水の銛と木の枝の矢が飛んできて水の銛がラヴィアーネの左二の腕を傷つけ、木の枝の矢がデリョーラの前をかすめとってきたのだった。ラヴィアーネがひるんだ隙に乃江美は抜け出し、枝が飛んできた方向の場所に梢と舞風と澄季がいて、更にウサギの背に乗ったチラとゾゾもいたのだった。 「みんな、無事だったんがや!」 乃江美は仲間の安否を確かめると胸をなでおろした。 「ええ。派手な光に呑み込まれた時はどうなるかと思ったけど、合流できたわね」 舞風が自分たちはそう易々とくたばらないと言うように応えてきた。 「わたしたちの技、守要玉がないと使えないと思ってたら出せたし……」 棍棒を構えて木の枝の矢を出してきた梢が言うと、チラが教える。 「どうやら守要玉から発せられるエネルギーが空間を起こしたから、守要玉なしでも技が使えるようで」 「乃江美ちゃん、きみならやれるよね?」 澄季が乃江美に訊いてくると乃江美は顔を凛とさせて返事をした。 「わかってるがや。『破生の盤』を壊すと」 四人のデラツウェルクと四人のリノーマサーゲストは対面して向かい合う。 「チラ、ゾゾ。あたしのサポート、頼むがや!!」 「OK!!」 乃江美はチラとゾゾにそう頼んで、チラとゾゾは自分が乗っているウサギを操って乃江美のサポートに出る。 「おおっと、そうはさせねぇよ!」 アッターカが降下してきて乃江美の前に立ち、三日月型の剣に赤い炎をまとわせ、乃江美に斬りかかろうとしてきた。乃江美は剣を出して黄金色の電撃をまとわせ、アッターカの剣を防いだ。 「お前が『破生の盤』を壊すってんなら、おれが邪魔するぜ」 「あたしが暁台を消したりなんかさせへん!」 乃江美の電撃の剣とアッターカの炎の剣がぶつかり合う。他の面々も暁台の消滅と乃江美の目的のために戦い合っていた。 ラヴィアーネは自分の周りに尖った岩をいくつも出してきて梢に向けて飛ばしてきた。梢は棍棒を振るって蔓と葉が絡まったような盾を出してラヴィアーネの攻撃を防いだ。 「お前だってわかる筈だ。〈安樹玉〉に選ばれた人間なら森や草地を破壊する輩の憎さが!」 ラヴィアーネは岩の杭や岩石を出して拳で押し飛ばしては梢に問いかける。梢は蔓草と葉の盾を出したり棍棒を横に振るって花弁の旋風を出してラヴィアーネの攻撃を防いだり反撃したりしてきた。 「確かに開拓のために森や草地を破壊してきたよ、人間は。あなただって人間たちのいる場所に危害を出してきたじゃない」 「そんなのは言いがかりだっ!!」 ラヴィアーネは右腕に岩石をまとわせ梢にぶつけようとしてきた。梢は棍棒でガードして踏みとどまった。 デリョーラは氷柱をいくつも出してきてそれをつなげて氷柱の長い鞭を作り矛先につなげて振るってきた。舞風は扇をX字状にあおって旋風状の防壁を出してデリョーラの氷柱の鞭を受け止める。 「そこをどいて! 『破生の盤』で新しい地上の楽園を出すんだから」 「いいえ、どかないわ。わたしは乃江美に暁台の存亡を委ねたんだからね!」 デリョーラは氷柱の鞭を引っ込め、かけていた部分を再生させる。 「人間は大気を汚して鳥や虫の飛べない空にしてきた! 地上の楽園が戻れば空気も浄化されるというのに!」 デリョーラの発言を聞いて舞風は攻防を繰り返しながら言い返す。 「確かにそうだけどね、一度やっちゃったものは取り返せないはわかっているわよ。だからといって多勢を巻き込んでまでやり直すのは間違いなのよ!」 舞風は扇から風の刃を出してデリョーラに向けて放つ。デリョーラは氷柱の鞭で風の刃を防ぐも、氷柱が粉々に砕けて再び氷柱を出して矛先につなげる。 「お前たち人間が我々を止める側とはいえ、何故我らと同じ小人として現れるのだ!? 小人よりも体も力も上回っている人間なら、デラツウェルクも潰せるのだぞ?」 ヌッレは〈誠鉄玉〉の名残による金属発生能力を使って丸鋸や手裏剣などの飛び道具を出してきて澄季に向けて放つ。澄季は銛銃を使って水圧による弾を出してきてヌッレの攻撃を回避する。 「それは……フェアじゃないからじゃないのか?」 「どういうことだ?」 ヌッレは澄季たち人間が小人の戦士になってデラツウェルクと戦う訳を澄季から聞いて疑問を抱いた。 「ぼくたち人間が守要玉によって人間から小人の姿になるのは、同じ目線で戦うってことじゃないかな。目線が違えばフェアじゃない。守要玉がぼくたちにこう教えてくれたんじゃないかと」 澄季の言葉を聞きながらヌッレは澄季の真上に鳥籠を落としてくるが、澄季は銛銃から高めの水圧による噴射で逆走して退けた。澄季の悟りを聞いてヌッレは納得しつつも、澄季に執拗な攻撃を出してくる。 乃江美とアッターカも『破生の盤』をめぐって戦い合い、アッターカは火の玉を乃江美は黄金色の電気の玉を出して二つがぶつかり合うと、爆ぜて朱色の硝煙が発せられる。またアッターカは乃江美の様子が変わっていることに気づいた。表情に疲れが出ていて肩を揺らしい気が荒くなっていたのを。 (あの女が戦う度に体力が削られていってかなり疲労しているな) それは乃江美がアッターカより年下だからか、アッターカの方が能力値が上回っていたのかは不明だが、アッターカはどうせならと三日月型の剣に炎をまとわせて大型の火炎弾を乃江美にぶつけようとしてきた。 だがアッターカは後ろから両腕を押さえつけられてしまう。左にゾゾ、右手にチラが飛び出してきてアッターカの手の動きを止めたのだった。 「乃江美、今のうちに行けっ!」 「ここはあたしたちが押さえているから……」 ゾゾとチラの手助けのおかげで乃江美は急いで『破生の盤』へ向かっていった。 「離せ! お前たちだって地上の楽園を人間たちに奪われとはいえ、人間の型を持つとは情けないにも程がある!」 アッターカはチラとゾゾに両手を押さえつけられて振りほどこうとするが、ゾゾとチラは必死でアッターカの動きを止める。 「だけどいつまでも過去の不幸にしがみついたって、どうにもならない! だから、おいらたちは別の場所で暮らすことにした!」 「今まで築き上げたものがなくなったら、別の場所で築き上げればいいだけのこと……。あたしたちは女王さまや乃江美の生き方は正しいまでとはいわないけど、そうしようと実感した!」 ゾゾとチラはアッターカに告げる。乃江美はようやく『破生の盤』に降り立つと、剣を両手に持ち、守要玉が生み出した空間の電撃の力を全集中させて刀身に黄金色の電撃によって剣が金色になると思いっきりの力で、『破生の盤』の中心に突き立てたのだった。 『破生の盤』に亀裂が走り乃江美が先程拳で叩きつけたのもあって、亀裂は黄金色の光を出しながら放射状に砕けた。誰もがその一部始終を目にしていた。 『破生の盤』が砕けると同時に白い光と黒い闇のような波動が出てきて爆ぜて、その衝撃に乃江美も仲間たちもデラツウェルクも気を失ったのだった。 |
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