次の日は日曜日だったので、二組の家族は待ち合わせ場所に来た。慎は学のお母さんに説教されてべそをかいており、学は慎の両親に本当のことを話しても生きた心地がなかった。 慎の両親は学の案内でマンションにやって来た。後藤家がマンションの入り口で待っていると、前川家が来たのだった。 「どうも初めまして、わたしが後藤学の母です……。」 「そちらこそ、初めまして……。前川慎の母です……。」 二人の母があいさつを交わすと、互いの顔を見て意外なことを口にしたのだった。 「恭子……。」 「お姉ちゃん……。」 (え!?) 学と慎、それから二人の父も美鈴も驚いていた。 「あなた、恭子!? 恭子なの!?」 「どうしてお姉ちゃんがこの町にいるのよ!」 (ぼくのお母さんと慎のママが姉妹!?) (じゃあ、学くんとぼくは従兄弟なの!?) 学たちが驚いている中、二人の母親は口げんかを始めた。 「あなた、自分の子どもに勉強させないってどういうことよ!」 「お姉ちゃんだって、無理やり子どもに勉強させて! お父さんと同じよ!」 「わたしは子どもたちに後悔のない人生を歩ませたくないだけよ! 恭子は勉強しないで遊んでばかりだったじゃいの!」 「わたしはちゃんと漫画家という仕事を持ってるわよ! 勉強しなくたって仕事に就けたじゃない!」 「わたしが二十歳の時にお母さんが亡くなって以来、あんたの世話をしてきたのはわたしなんだからね! 家出しただけでなく、お父さんの葬式にも出ないで!」 「知らなかったのよ! 居場所を知られたら家に連れ戻されると思って、教えたくなかたのよ!」 二人が言い争っている中、二人のお父さんが仲裁した。 「久子、やめろ。妹だろ。」 「恭子、子どもたちが見ているじゃないか。」 「あなたたちは関係ないでしょ!」 お母さんと恭子叔母さんは二人を怒鳴り、お母さんは学の手をママは慎の手を引っ張った。 「もう、あんたなんか妹じゃないわ。わたしの前に出てこないで!」 「そっちこそ、姉妹の縁切ってやるわよ!」 そう言うと前川家はマンションから出て行った。 レジデンスいつくしが丘に着くと、慎のママは慎に言った。灰色だった曇り空はいつの間にか横殴りの雨が降っていた。窓を閉めていてもザアザア雨の音が入ってくる。 「いい? もう学くんとは関わっちゃダメ。いくら親戚でも、あんなスパルタ教育者の息子となんか仲良くしたら、慎はおじいちゃんみたいな人間になっちゃうじゃない。」 「でも、学くんは遊びたがっていたし……。」 「あなたは実の叔父じゃないからそんな事が言えるのよ! 妻の甥は遊ばせて、自分の子には勉強させるなんて! お姉ちゃんだって、二十年経っても、昔と変わっていない……。少しは子供の気持ちを理解していると思ってたのに!」 そう言われるとパパは黙るしかなかった。慎も何も言えなくなった。いや、本当はこう言いたかったのだが、今のママには言えそうも無かった。 (ママ、ぼくは学くんの家で勉強している間、自分のやりたいことが見つかったら、それの勉強をしようと思ったのに……。) ママが若い頃、漫画家を目指していたようにぼくもやりたい夢の勉強ならするよ、と心の奥に閉まったのだった。 後藤家では、お母さんは学に説教していた。 「身代わり勉強させるなんて! 随分と堕ちたわね。ますます勉強しなくなるじゃない。」 学も黙って説教されるしかなかった。学は罰として毎日、塾に行かされることになった。唯一塾の無かった水曜日にはパソコン教室へと行かされることとなった。また苦難の日の始まりかと思っていたのだが……。 そのすぐ先の未来に誰も予想できなかった出来事が起こったのだ。 次の日、学が学校から帰ってくると、家の電話がなっていた。 「はい、もしもし。後藤です……。あっ、おばあちゃん。何? ええっ、おじいちゃんが!? うん、うん、お父さんに伝えるよ!」 電話の相手は父方の祖母からであった。学は電話を切ると、父の携帯電話に電話した。 「もしもし、お父さん?」 『どうしたんだ、学。』 「おじいちゃんが、倒れたんだよ!」 『ええっ! 本当か? すぐに行くからな! お母さんには「お父さんはおじいちゃんが倒れたから、帰りが遅くなる」って伝えてくれ!』 そう言うと、お父さんは携帯を切り、会社を早退して祖父のいる田舎へと向かったのだった。 学はいつものように塾へと行ったが、遠くで暮らしているけどおじいちゃんのことが気になってしょうがなかった。学は父方の祖父母のことが好きだった。夏休みのお盆にし会えないが、とてもかわいがってくれていたからだ。お母さんが迎えに来ると、「お父さんはおじいちゃんが倒れたから実家に帰った。」と伝えると、お母さんは「えっ。」と驚いた。 「本当なの? 田舎のお義父さんが倒れたって?」 「うん、お父さんは急いで田舎に行ったよ……。」 「ああ、大丈夫かしら。大したことじゃなければいいんだけど……。」 家に帰ると、美鈴がお父さんの伝言をお母さんに伝えた。 「おじいちゃん、ぎっくり腰だって。命に別状は無いけれど、しばらく畑仕事はできないらしいよ。」 「そんな……。じゃあ、誰が変わりに畑仕事をしてくれるの?」 学のお父さんには妹がいたが、七年前に隣村の果樹園に嫁いでいったため、他に働き手はいなかった。 この出来事で、学の人生が変わっていくのだった。 |
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